1.自己紹介

1_3 特許(2020/03/20)

1)背景

 私が最初にSSE(ソーシャル・システム・エンジニア)の仕事に関わったのが、介護保険制度の要介護認定関係でした。介護保険制度ができる以前から、要介護認定の仕組みが世の中に受け入れられていくため支援を行ってきました。それまでは、社会保険制度や介護に関する知識がありませんでしたが、超高齢化社会を支えていくための仕組みづくりを支援するということに意義を感じました。
 そうした中で、ナチュラルヒストリーという言葉に出会いました。広い意味では、自然史という考え方もできると思いますが、自然界の秩序に着目し、その自然界の仕組みに従って理解を深めようという様な考え方でもあり、人間社会と自然という違いはあるものの、SSEの考えに近いものを感じました。
 人間は老いを迎え死に至りますが、医療の進歩とともに心身が衰えながらも長生きする人生100年時代を迎えました。100歳まで健康な人もいますが、要介護状態でありながらも支援を受けて生きていける時代になりました。従来の老いの迎え方とは異なる社会が始まったといえます。
 私の仕事では、要介護認定申請に従って、心身状態を調査し、要介護認定を行った要介護認定のデータ(以下、認定データ)を沢山扱います。現時点では、介護保険制度は当たり前であり、日常的に要介護認定が行われ、認定データもビッグデータと呼ばれるようになりました。この認定データを活用すれば、要介護状態になった人がどの様に老いを迎えていくのかをを知ることができるのではないかと考えるようになりました。そうして生まれたのが、以下の2つの特許になります。
 1つは、まさしく要介護状態になった人がどの様に老いていくのかを明らかにしようというもので、その秩序というものを「状態遷移」というキーワードで理解していこうというものです。もう1つは、その状態遷移を目で見て分かるようにグラフ化しようというものになっています。
 データ分析では、何をしたいのかということの掘り下げが最も重要です。この特許では、要介護状態という前提ではありますが、人生100年時代を迎えるにあたって、どの様な老いを迎えていくのかの分析方法を追求しています。データ分析の参考になればと考えて示させていただきました。

2)状態遷移分析の特許

 認定データには、中間評価項目という5種類の軸(1:身体機能・起居動作、2:生活機能、3:認知機能、4:精神・行動障害、5:社会生活への適応)の得点情報があります。この5軸に着目し、被保険者毎の状態がどの様に遷移していくかを調べることにしました。
 状態は、5軸で表され、その取りうる状態は有限個(無数ではない)であり、離散的(連続ではなくバラバラ)です。つまり、その要介護認定の状態は、予め知りうる状態であって、その状態を遷移していくと考えることができます。また、ビッグデータを分析すれば、ある状態からある状態へ遷移する確率を計算することができま、全ての状態間の遷移確率を求めることができることになります。
 この様な状態遷移を分析することができる仕組みを調べたところ、マルコフ連鎖という機械学習の仕組みの1つが活用できると分かりました。これは、その状態の未来の状態が、現在の状態だけで決まるという場合に適用できるもので、現時点の心身状態が決まれば、次の心身状態(複数あり得ます)に遷移する確率が分かるというものです。また、現時点の心身状態の過去の心身状態に関係なく、未来の心身状態を予測するという考え方になります。
 本特許は、このマルコフ連鎖の考えを活用し、認定データによる状態遷移を分析できるようにしたものになります。具体的には、以下を参照してください。

特許の概要  (JPB6513138_abst.pdf)

特許情報  (JPB006513138-000000.pdf)

3)状態遷移グラフの特許

 状態遷移をグラフに表すためには、グラフ上に状態を示すポイントが布置しなければなりません。また、複数の状態がある訳ですので、グラフ上に複数のポイントを布置し、それぞれの状態の遷移をベクトルで示すことになります。つまり、状態遷移のグラフは、状態のネットワーク図のようなものになります。
 人の関係図、言葉の関係図等では、複数の人や言葉が配置され、関係する人や言葉を線によって結ぶことで、その関係性が一目で分かるようになります。しかし、沢山の状態が存在し、ある状態から遷移しうる状態は複数あり、その関係性を線で結ぼうとするといくつかの線は重なってしまいます。例えば、遷移する確率が高い場合に太い線で示し、遷移する確率が低い場合に細い線で示すという様な事を考えた場合、線が重なったのでは、遷移の状況を把握することが困難になってしまいます。
 この遷移を示す線に重なりが発生しないようにするためには、状態を布置する時、その布置するポイントをずらす必要があります。人間がその線の重なり具合を見ながらずらすという方法もありますが、それでは時間が掛かりますし、グラフ化が自動化できません。そこで、重なりが発生しないようにポイントを自動的にずらして布置する方法を考えたのが、本特許になります。

特許の概要  (JPB6657354_abst.pdf)

特許情報  (JPB006657354-000000.pdf)

4)Pythonによるグラフ事例

 状態遷移のグラフは、Pythonで描画することが可能です。ここでは、Pythonのグラフをブラウザ上で実行するJupyter Notebook(Anacondaを導入した時に一緒に導入されています)の環境で、インターラクティブなグラフが作成できるライブラリであるBokeh(Anacondaを導入した時に一緒に導入されています)を使用して描いたグラフ事例を2種類示します。1次元のデータを折りたたんで表示する中間評価項目によるグラフと2次元で表示する自立度によるグラフの2種類を示しました。
 いずれも、グラフの下に布置しているボタンで描画する内容を変えることができます。ボタンごとにON/OFFを切り替えることができ、複数のボタンをONにすると複数の情報を重ねて表示することができます。
 また、右上にツールバーが配置されます。左から、「Box Zoom:クリックした範囲を拡大」、「Zoom In:拡大表示」、「Zoom Out:縮小表示」、「Reset:元のグラフを表示」、「Save:保存」、「Bokehのサイトを表示」の機能があります。

中間評価項目によるグラフ

自立度によるグラフ